2016年06月09日

ベーシックインカムに隠された罠

5か月前だから正月休みが終わったころ、元経産官僚の岸博幸が「日本でベーシックインカムは成り立つか」という記事を書いていた。
 
「ベーシックインカム」のメリットとして、
@貧困対策
A行政の無駄の削減
B雇用対策
の3つをあげていた。
 
しかし日本が導入するには、

財源の面からはかなり厳しいと言わざるをえません。例えば、年金生活世帯(夫婦2人)の平均消費支出は約24万円/月なので、毎月12万円を全国民にベーシックインカムとして支給すると仮定したら、なんと年間で173兆円の財源が必要となります。社会保障給付費(年金、医療、介護・福祉などの合計)が117兆円であることを考えると、とても賄えません。
・・・
財源の問題からベーシックインカムの導入は難しいという結論にならざるを得ません。
 
と結論づけていたにもかかわらず、試験的に導入を検討しているフィンランドの積極的労働政策の例を挙げながら、「従業員の解雇自由」とか労働力の流動性の高い労働市場の必要性を唱えていた。
 
そして硬直的な日本の労働市場の改革の必要性を指摘し、「安倍政権はおそらく今年夏の参院選までは大きな改革は進められないと思いますが、それでも、労働市場の改革を早く経済政策の最優先課題にすべきではないでしょうか。」と労働法制の改悪を暗に期待していた。
 
これは元経産官僚の安倍政権の先行き不透明な「成長戦略」の推進を促す内容であった。
 
それから2か月後には、もう少し平易な庶民感覚での説明が「お役立ち情報の杜」から発信されていた。
 
【誰もが暮らしやすい社会を実現するには?】ベーシックインカム制度について考える。」から一部を引用する。
 
【ベーシックインカムの特徴】
・支給単位は個人
・所得制限や資産調査は行なわない
・年齢制限・職種制限はなし
・保険料を支払う必要はなし
・支給は定期的
・支給額は一律で、富裕層も貧困層も同額
・働くと逆に収入が減るということはない
・行政による裁量が入り込む余地がない
【ベーシックインカムを導入した場合の社会に与える影響】
1)貧困対策
 日本では格差が広がり、ワーキングプアなどという言葉が生まれてしまいました。一生懸命働いても人間としての最低限の生活をすることが出来ない状態は、明らかな憲法違反です。この問題解決にベーシックインカムは役立ちます。
2)少子化対策」
 日本は暮らしにくい社会であるがゆえに、人口がどんどん減っています。「女は子供を二人以上産め!」と女子中学生に命令する校長が出現するなど、「子育て右翼」が増殖中です。対症療法ではなく、金銭も含めた根本問題に目を向けねばなりません。
 ベーシックインカムは個人を単位として支給されるので、子供が増えるほど貧乏暮らしを強いられるということがありません。
3)行政コストの削減
 失業保険、生活保護、児童手当、および基礎的な年金など、ベーシックインカムで代替できるものを一本化すれば制度を簡素化できます。国民全員へ無条件で支給されるので、受給資格の有無を判断し管理するための膨大な手間・時間・お金を無くせます。
4)労働環境の改善
ブラック企業という言葉がすっかり市民権を得ましたが、長時間過酷な労働をさせて低賃金しか払わないという搾取労働を撲滅しなければなりません。ベーシックインカムが導入されれば、劣悪な職場から離脱することが容易になります。辞めても生活の心配がないからです。経営者側は反省し、職場環境を改善する機会を得られます。その結果、商品・サービスの質が向上するので消費者側のメリットにもつながります。
 生活やお金のためだけに不本意な仕事をさせられる状態から脱したい、と思うのは当然です。より良い職場への移動、また、サラリーマンに向いていなければ起業するなど、選択肢が広がります。ベーシックインカムで最低限の生活が保障されていれば、失敗を恐れずに経済活動をすることが容易になります。とにかく、労働意欲の向上につながる政策が重要です。
5)景気対策
 最低限の所得が保証されて生活するうえでの不安が低減すれば、財布の紐も緩みます。消費税率を上げて景気に冷や水を浴びせるのとは反対です。
6)治安の改善
 弱い立場の者にしわ寄せがいく社会構造は、大量の犯罪者や犯罪者予備軍を生み出します。それが治安の悪化や社会コストの増加につながります。ベーシックインカムを導入すれば、国民全員に対して生活の安心を提供でき、追い詰められて犯罪に走ることを抑止出来ます。
【ベーシックインカム導入のための財源(案)】
・行政システムの簡素化による税金の無駄遣い削減。
・天下り役人は働かずして高額の給与や退職金を得ていますが、彼ら不労所得者は社会の活力を奪う元凶なので大ナタを振るう。
・富裕層や、内部留保を何百兆円も溜め込んだ大企業に対して資産課税を行う。
・大企業ばかりに有利な税制を減らす。
・防衛予算を減らす。米軍への思いやり予算・海外へのばらまき廃止。
・無駄な公共事業の廃止。
・その他いろいろ・・・
・・・後略・・・
 
最後の「財源案」が実現すれば、日本にも「ベーシックインカム」が導入可能のように見えてしまう。 
 
ところが別の観点から考えれば、従来の価値観では、荒唐無稽な政策という印象が強いベーシック・インカムだが、シェアリング・エコノミーやAIの普及が急速に進んでいることを考えると必ずしもそうとはいえなくなってくるという。 
 
<スイスで否決のベーシックインカム。だがAI時代の到来を考えると現実的?>
 2016/06/07 ニュースの教科書
 年金など各種の社会保障を廃止する代わりに、すべての国民に一定金額の支給を行う「ベーシックインカム」制度に関する国民投票がスイスで行われた。結果は否決だったが、フィンランドでも試験運用が実施されるなど関心が高まっている。
 タダでお金を支給するなど荒唐無稽にも思える政策だが、これから本格的なAI(人工知能)・ロボット時代が到来することを考えると、そうともいえなくなってくる。
 スイスでは2016年6月5日、ベーシックインカムの是非を問う国民投票が行われ、反対が70%で否決となった。スイスで提案された制度は、18歳以上の国民に対して毎月27万円、18歳未満には6万8000円を無条件で支給するというもの。
 スイスは世界でもっとも豊かな国の一つであり、1人あたりGDPは日本の2.5倍もあり、物価が高い。物価が2倍と仮定し、日本の現状にあてはめると、18歳以上は13.5万円、18歳未満は3万4000円といったところになるだろう。
 人口構成などを考慮に入れれば、全国民に10万円ずつ支給するというイメージを想像すればよい。家族3人の場合には30万円の収入になるので、それだけで生活することは不可能ではない。
 問題は財源だが、すべての社会保障を廃止し、極めて高い税率の消費税を導入すれば捻出できない金額ではない。ただ、今の社会保障制度に慣れきってしまった国民にとっては、選択しづらい政策であることには変わりないだろう。
 ただ反対意見として多く見られる労働意欲が削がれるという問題については、また別の視点が必要である。
 最近、経済学の分野ではシェアリング・エコノミーやAI・ロボットが台頭した後の社会に関する議論が活発になってきている。
 AIやロボットが普及すると、現存の仕事のうち最大で半分がロボットなどに置き換わるとの予測も出ている。またウーバーやAirbnbに代表されるようなシェアリング・エコノミーが拡大すると、社会全体で必要なリソースも大幅に少なくなる。つまり、同じ経済を維持するのに必要な人的・物的資産が大幅に減少する可能性があるのだ。
 今年3月に来日し、安倍首相と会談したジョセフ・スティグリッツ教授も、シェアリング・エコノミー下では、必要な設備投資額は縮小せざるを得ないとの見解を示している。
 近い将来、労働者の多くが、働きたくても仕事がなく、一方で、社会全体としては食べていけるだけの富を生み出せる状況が到来する可能性が出てきている。ロボットやAIが生み出す富を効率的に再配分する機能として、ベーシック・インカムは有力な選択肢となるかもしれない。
 このところ欧州を中心にベーシックインカムに関する試験的な導入が相次いでいる。フィンランドでは、一部の国民を対象に来年から試験導入が実施されるほか、オランダでも自治体レベルの試験が行われる。
 従来の価値観では、荒唐無稽な政策という印象が強いベーシック・インカムだが、シェアリング・エコノミーやAIの普及が急速に進んでいることを考えると必ずしもそうとはいえなくなってくる。
 少なくとも、労働に対する基本的な認識が180度変わる可能性は十分に考えておくべきであり、その延長線上として、ベーシックインカムについても、議論の対象から外すべきではないだろう。

経済学者で法政大学経済学部の竹田茂夫教授は、今朝の東京新聞の「本音のコラム」でベーシックインカムには、「新自由主義のわなが口を開けている」と喝破していた。
 
 先日、スイスで歴史的な国民投票があった。国民1人ひとりに毎月約27万円相当の所得を国が無条件で支給するベーシック・インカム(普遍的最低限所得保障、UBI)の提案だ。大差で否決されたが、広範な議論の端緒が開かれた。
 この数年でUBIへの関心は欧州で高まり、小規模の社会実験の計画もある。米国の新興IT企業のトップらも推奨する。背景には現場労働から管理職まで不要にする技術のIT化で低賃金の非正規雇用がますます増加し、富裕層の1人勝ち・中間層以下の賃金停滞・成長鈍化-により資本主義が正統性の危機にひんしている現実がある。
 確かにUBIは女性や子どもの貧困を一挙に解決し、労働しない(できない)人にも人生設計や将来展望の機会を与える。勤労者が社会にしがみつくのも無用になる。だが財源不足や国民の遊民化の問題より重大なのは、公共性や連帯の侵食の危機だ。
UBIと引き換えに医療の国民皆保険のような福祉国家のインフラが廃止されれば、公共サービスは市場化されて格差は逆に拡大する危険がある。
 まさにこの点にこそ、福祉国家批判の超保守派や自己責任と最小国家を理想とするリバータリアンがUBIに賛同してきた理由がある。UBIは極めて重要な政策思想だが、新自由主義のわなが口を開けている。
 
この「本音のコラム」を読んで、冒頭紹介した岸博幸の狙いが鮮明になった。
 
ベーシックインカムという発想はかなり前から労働組合が唱えていたことがあった。
 
最近は、最低賃金の大幅引き上げ(時給1500円)とか、均等待遇としての同一労働同一賃金を求めていたが、ようやく「同一労働同一賃金 法制化へ 差別的待遇禁止、全非正規に」という動きになっている。
 
しかし、経済界からみれば均等待遇政策により、非正規社員が一気に正社員と同額の賃金に引き上げれば人件費が大幅に増加するのでありえない話であり、むしろ全体の賃金レベルを低下することを狙っている。
   
ましてや、今の安倍政権が「ベーシックインカム」を唱え始めたら、まさに竹田教授が指摘するように、新自由主義の罠によって「医療の国民皆保険のような福祉国家のインフラが廃止されれば、公共サービスは市場化されて格差は逆に拡大する危険」が増大するのだが、すでにTPPの批准によってその危険性は現実的になっている、とオジサンは思う。

posted by 定年オジサン at 12:42| 神奈川 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 貧困と格差 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年11月22日

テロ根絶は武力ではなく格差是正が必須である

1か月前には「景況感3期ぶり悪化 大企業・製造、中国減速で 9月短観」という状況であった日本の状況。
 
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2週間後には政府は経済界3団体トップに対して積極的な設備投資を促したが、「設備投資拡大、官民ですれ違い 企業『規制緩和先決』」という結果に終わっていた。
 
そして1か月後には「鈍い設備投資、景気停滞 GDP年率0.8%減、2期連続マイナス 7〜9月期」となった。

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この状況を海外メディアは「笛吹けども踊らず、国内企業は設備投資削減−安倍政権に衝撃的とも」と冷静に分析していた。
 
自らの経済政策の無策ぶりを認めようとはせず、内閣支持率上昇という目先のことしか考えられない安倍政権は、上から目線で経済界の首脳を恫喝すればなんとかなるという浅はかな発想しかなかったようである。  
 
<景気「足踏み」、急増58社 賃金伸びず消費停滞 主要100社調査>
 2015年11月22日05時00 朝日新聞DIGITAL
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 朝日新聞が今月実施した主要企業100社への景気アンケートで、国内の景気が「足踏み状態」にあるとみている企業が58社にのぼった。6月の前回調査の4社から急増した。個人消費や設備投資が力強さを欠き、今夏以降に中国経済の減速が表面化したことで、産業界に景気の停滞感が急速に広がっているようだ。
 調査は年2回で、原則として経営トップに面談している。今回は2〜13日に実施した。
 国内の景気が「緩やかに拡大している」とみる企業が前回の92社から41社に大きく減る一方、「足踏み状態」にあると判断する企業が大幅に増えた。「足踏み状態」と答える企業が50社を超えたのは2012年11月調査以来3年ぶり。第2次安倍政権下では最多だ。
 「足踏み状態」とみている58社に、そう判断する根拠を二つまで選んでもらったところ、「個人消費」が43社で最も多く、「設備投資」の15社が続いた。セブン&アイ・ホールディングスの村田紀敏社長は「個人消費は停滞を始めた。実質賃金が上がっていないことが要因だ。アベノミクスは一つの壁に突き当たっている」と話す。
 個人消費の回復が鈍い理由を100社に三つまで選んでもらったところ、「賃金が十分に伸びていない」が50社で最も多く、「円安に伴う食料品などの値上げ」「海外経済の影響も含めた景況感の停滞」(ともに41社)が続いた。「医療や年金などの不安が解消されないと、給与が上がっても消費に回らない」(明治ホールディングスの松尾正彦社長)など、日本の将来への不安を挙げる声も多かった。
 15年度末の国内の景気については、現時点より「拡大の兆しがみえている」が52社で最多。先行きの懸念材料を二つまで選んでもらったところ、「海外経済の先行き」が64社で最も多く、「個人消費の停滞」(46社)を上回った。三菱商事の小島順彦会長は「海外経済の成長が鈍化するなか、輸出や設備投資の急回復は望みがたい」とみる。
 世界経済の懸念材料を一つ選んでもらう質問では、80社が「中国経済の減速」を挙げた。(大内奏)
 
安倍政権が失速してしまえば「一蓮托生」の経済界は遂に「経団連、賃上げ要請受け入れへ ベア容認も」という事態に至るのだが、所詮は上位100社程度の企業での賃上げレベルでは、とてもじゃないが個人消費の大幅な伸びは期待できない。
 
政治が最初に行うことは国民から集めた税金の最適な「再分配」なのだが、今の安倍政権は集めた税金は米国への上納金とでも思っているらしい。 
 
<米DSCA:無人偵察機3機、日本に売却へ 議会に通知>
 毎日新聞 2015年11月21日 22時06分)
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米国防安全保障協力局が、日本に売却する方針を米議会に通知した滞空型無人偵察機「グローバルホーク」=青森県三沢市の三沢基地航空祭で2014年9月7日、宮城裕也撮影
 
 【ワシントン西田進一郎】米国防安全保障協力局(DSCA)は20日、滞空型無人偵察機「グローバルホーク」3機と関連装備などを推計12億ドル(約1480億円)で日本に売却する方針を米議会に通知したと発表した。
 DSCAは声明で、日本は東アジアや西太平洋地域の平和と安定を確保するうえで米国の重要なパートナーだと指摘。19日付で議会に通知したグローバルホークの売却について、「日本の情報収集・警戒監視・偵察(ISR)能力を著しく高める」と分析し、「日本が地域における脅威を引き続き監視し、抑止していくことが確実にできるようにするため役立つ」と意義を説明した。
 防衛省は「広域における常続監視能力の強化」を目的にグローバルホークの取得を目指しており、2016年度予算の概算要求では3機の購入費用として367億円を計上した。東シナ海などで活発化する中国軍の活動などが念頭にある。日米両政府は米議会の承認を経て、販売に向けた交渉を加速化させる。
 
まさに戦争ゴッコの高価なオモチャに過ぎない滞空型無人偵察機なんかは日本では全く必要としない代物であり、米軍に替わって南シナ海の監視を肩代わりするつもりなのだろうか。
 
それにしても3機で367億円にもかかわらず関連装備等を含めると1480億円になるというのは全く納得できない買い物である。
 
これだけあれば削減された多くの社会保障費が復活し多くの国民の生命が守られるということを安倍晋三は想像だにしない。
 
ところで今朝のTBS「サンデーモーニング」で日本のアラブ地域研究者で東アラブ政治やアラブ民族主義思想を専門としている青山弘之・東京外国語大学総合国際学研究院国際社会部門教授はフランスのパリでの連続テロ事件についてこんなことを言っていた。
 
「フランスには多くの移民者がいるが現在はフランス生まれの移民2世、3世の若者たちが多く、今回のテロ実行犯も皆フランス生まれであり、オランド大統領はテロとの戦争といったが、実はフランスの国内問題である」  
 
移民の子はたとえフランス生まれでも最初から差別され満足な職に就けず貧困に陥る可能性が高い。
 
今年の1月に発生したフランスの連続テロ事件から、今回のテロ事件をすでに予見していたのが双日総合研究所副所長主任エコノミストの吉崎達彦である。 
 
<テロと格差の2015年を考える>
 2015年01月23日 22:22 BLOGOS 
 大荒れの年明けです。1月7日にフランスで起きた連続テロ事件により、全世界的な緊張が走りました。最初はのんびりしていた国内も、日本人2人が「イスラム国」の人質になって空気が変わりました。今年は「テロ」問題が、重く圧し掛かる1年となりそうです。
もうひとつ、世界的に注目を集めているテーマが「格差」です。日本でもトマ・ピケティの『21世紀の資本』(みすず書房)が売れ行き好調のようですが、これまた打開策の見えにくい2015年の大テーマと言えるでしょう。
「テロと格差」は、いずれも定番の問題ですが、互いにけっして無関係ではありません。いずれも「低成長で戦争のない時代」の産物であり、どんな対策が可能であるのか。国際的な論議を盛り上げていく必要があるのではないかと思います。
・・・中略・・・
●移民社会が突きつける問題
 今回の事件では、フランスという国の特殊性も無視できないものがある。同国はフランス革命以来、流血の上に多くの権利を獲得してきた歴史を持ち、それが誇りでもある。米国人漫画家から見ても過激なシャルリー・エブド紙は、単なる「表現の自由」というよりも、「信仰を風刺する権利」を命懸けで守ろうとしているかのように見える。フランス人が「教会を批判する権利」を獲得するために、どれだけの犠牲を払ってきたことか。「イスラム教徒は例外にせよ」と言われても、容易には受け入れられないのではないか。
さらに移民社会という問題がある。既にイスラム教徒が人口の7%以上を占めているといわれる。彼らに対し、「フランス語を話し、フランス文化を共有するフランス人」となるように求めているのが同国の移民政策である。そのために、「公的な場でイスラム教徒の女性のスカーフ着用を認めるべきではない」といった問題も生じることになる。
これに対し、移民の生活様式を守ったままで受け入れているのが米国や英国のスタイルである。国内に多くのエスニックグループが誕生することになるが、もともとそういう社会であるし、異文化を許容することには自信があるというお国柄である。とはいえ、今の米国で不法移民問題が深刻な政治課題になっていることはご案内の通りである。
さらに言えば、移民を積極的に受け入れるつもりはないけれども、自国の言語や文化を深く愛し、社会に溶け込んでくれた外国人を受け入れることはやぶさかではない、というのが日本式と言えよう。この方式では、人口減少を補うにはとても足りないのであるが、社会としての一体性を守ることの方を優先しているわけである。
さて、問題はフランス方式である。彼らの移民政策は表向き成功していることになっているが、そこには多くの偽善が入っていることも間違いない。往々にして移民社会は、「格差」や「差別」を「見える化」してしまう。そしてまた、移民を嫌う極右勢力も増大することになる。おそらくイスラム教徒の移民にとっては、「預言者に対する侮辱」はたくさんある不満のうちのほんの一部を占めるに過ぎないのではないだろうか。
フランス政府としては、彼らの制度が「うまく機能している」と言い続けざるを得ない。今さら米英型や日本型にシフトすることもできない。こうしてみると、文明の衝突が「フランスの漫画」で起きたのは、ある種の必然があったようにも思えてしまうのである。
・・・中略・・・
●低成長で平和な時代をどう生きるか
大きな戦争がなく、成長率も低い時代においては、経済的な格差が固定化しやすくなる。これにグローバル化が重なると移民人口が増え、宗教的対立から「文明の衝突」が起きやすくなる。結果としてテロ事件が発生したり、過激な「イスラム国」が勢力を伸ばしたりする……。
これが2015年の大問題であるとしたら、事態を解決するために大規模な戦争を起こそう、というのはもちろん論外なので、世界経済の健全性を保つためにどうやって社会の流動性を高めるかという視点が重要になってくる。
・・・中略・・・
「テロと格差」を論じるのは楽しからざる作業である。とはいえ、「低成長で戦争のない時代」とは、「大きな戦争の時代」よりもはるかにマシであるはずだ。
 
浮き彫りになったフランスの難題 国外でもテロの標的にさらされる恐れ」があるフランスは、旧宗主国としてマリをはじめ、北・西アフリカ諸国とのつながりが深く、経済的な権益も持っているのだが、少なくともフランスの移民政策は行き過ぎた「同化政策」であり、それが格差を生み出している根源になっているのではないだろうか、とオジサンは思う。 


posted by 定年オジサン at 12:31| 神奈川 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 貧困と格差 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする